【育成ゲームは好きですか? 地球を救ってみませんか?】作者:夕間朱音
第1話 育成ゲームは俺の生業です
2032年4月10日。カラッと晴れた朝、俺は家を出発する。と言っても行く場所はいつも通りの場所だ。
つまり学校。今は16歳で高校1年生だ。外に出るとあまりの息苦しさに咳き込む。
なにせここ数年はとにかく大気汚染がひどい。
今のままでは危険だからと言って環境問題の改善が叫ばれていたのは、数十年前のことだろうか。
まあ結局、人間は一度手に入れた裕福な生活を手放すことができず、今に至るわけだ。
今俺の目の前にある状況を説明すると、あまりの大気汚染で視界が遮られ、皆話すこともなく黙々と歩いている。
で、皆後ろに大きなリュックを背負っている。
2030年、世界中に向けて重大な宣言が出された。
「大気汚染異常事態宣言」である。
簡単にいえば、大気汚染が進みすぎてもうどうしようもありません、という敗北宣言だ。
とはいえ、皆そのことをあまり問題にしなかった。というのは、そのちょうど一年前に驚くべき装置が発表されていたからである。
この装置によって、人間はどんなに大気が汚染された中でも、その装置を背負って、付属のマスクをつけることによって、普通に外でも生活することができる。
しかもあまり肩に負担を感じないような設計になっているので、大気汚染なんか感じることがなかった。
名前は「エアーコントローラー」といって、少しダサかったがそんなことは気にならないくらい便利な装置だ。
しかもそこに目をつけた政治家が、速攻公約で国民への無料配布を約束したもんだから、あっという間に社会保障の中に組み込まれてしまった。
移動中の不便さえ解消されれば、あとは大体の施設が屋内に作られていたので、特に問題はなかった。
あの、某有名巨大テーマパークさえ、ついに世紀の大工事を終えて、屋内に作り替えられた。
もちろん、屋内であっても屋外のような空があり、太陽の光があり、風もある。
雨はなく、常に快適な天気のもとで遊べるし、ショーの時は空まで色々な色や模様に変わるから、とても魅力的でリニューアル前よりも人気があるくらいだった。
屋外の娯楽施設は、大体がこのように最新技術を生かした屋内型の施設に変わっていた。
まあ後の問題は環境問題によって様々な病気になる人が増えたことぐらいだが、これはいくらでも新しい臓器を作れる技術が開発されたので、全く問題がなかった。
みんな110歳前後で老衰で死ぬのが一般的だった。
ここ5年で大分世の中が変わったことは高校生の俺から見ても明らかだったが、その生活にみんな適応していたし、俺も深く考えたことはなかった。
ちなみに、俺の名前は湯咲郭斗ゆざき かくとという。
今はエアーコントローラーをつけて登校中だ。
俺が通っている高校は通信制高校の通学型コースである。
ここ10年ほどで通信制高校を選ぶ人はかなり増え、今では4割を占めている。
特に通学型コースは人気で、かなり入るのが難しいところも多い。
俺が通っているスターン高等学校の通学型コースもその一つで、かなり秀でた才能がないと通学型コースには入れないことで有名だった。
俺はそこに並外れた育成ゲームの才能があるというわけで、入学試験に合格できたのである。
俺は格闘ゲームやパズルゲームなどは全くできない。
育成ゲームだけが得意なのだ。
俺が育成ゲームに出会ったのは幼稚園の頃、携帯ゲーム機の育成ゲームに出会った時だった。
そのゲームは、小さなモンスターを育てるだけのゲームだったが、俺はとてもハマってしまった。
ちょっとした工夫で性格が変わり、手をかけるとその分だけモンスターに懐かれる。
しかもそのモンスターがとても可愛いのだ。
俺はとにかく育成ゲームを極め続けた。新作は必ずプレイして、何パターンもの育成方法を試し、全てのパターンを見つけるまでプレイし続けた。
さらにすべてのパターンをまとめたサイト「育成ゲームの全て」を運営し、アクセス数は一万を超えている。
これが将来なんの役に立つのか不明だと言われることも多いが、俺は育成ゲームで一生食っていける人間になるのだ!
「ふーん。あなたが育成ゲームマスターと呼ばれる湯咲郭斗か」
「ファ!?」
俺が驚くのも無理はないはずだ。
だっていきなり声をかけてきた女性は、細くて白い脚に、綺麗な花柄ワンピース、それに黒髪ロングで目はクリクリ、それでもって華奢で小柄で、しかも大きい…いやとにかく正統派美少女と呼べるような女子が立っていた。
それにしても柔らかそうだな…いやあそこの店で売ってるクッションがね、うん。
「どうしたの?随分フリーズしている時間が長いじゃない」
「そりゃいきなり名前を呼ばれましても…」
いやそうじゃなくて、あなたがあまりにも可愛くて見惚れてました。
ついでにその大きな…などと言えるわけもなく、一応無難な返事をしておく。
冷静になってみれば驚いても仕方ない状況だし、バレることはないだろう。
それにしても、声かわいいな。
「ああそうね。自己紹介もしてなかったし。私は水宮侑芽みずみや ゆめ。17歳よ。あなたに頼みがあって探しにきたの」
「いやなんで俺の名前知ってて、俺の居場所も特定してんの」
「そういうの気にしたら負けだから」
「いや負けも何も勝負してないから!」
驚きすぎて無難に終わったツッコミをスルーし、水宮はさらに話し続ける。
「ところで育成ゲーム得意なんだよね?」
「はい」
「じゃあこっちの世界にしばらくいるってどう?」
「えーっと、こっちの世界ってなんでしょうか。それと育成ゲームと何が関係しているのでしょうか。そしてあんた何者!?」
「質問多いなー」
「あんたが質問させるようなことしか言わないからでしょうが!」
「ふーん」
「いやここにきて逃げないで」
「逃げてなんかないわよ。それにこの超絶美少女を質問攻めにするなんて、ひどいと思わないの?」
「いや、自分で美少女って言っちゃうし、質問攻めにされてるの、絶対あんたのせいだし」
「まあいいや、こっちの世界にしばらくきてよ」
「いやちょっとなにいってるかわかんないです。それにこれから学校なんで失礼します」
「あーちょっとまって。学校のほうは行かなくても大丈夫だから。ちょっと今は説明できないけど、とにかくきて!」
「いや絶対大丈夫じゃないし」
「いいから!」
というわけでこの超絶美少女に手を引かれて、木陰に連れて行かれる。
「あんた地球救ってみたいとか思わない?」
「は?」
また意味不明なことを言われて戸惑う俺を無視して、水宮はさらに話し続けた。
「いや、私この世界の救世主なんだけど、あんたを助手にしようと思ってるの」
「いやなんであんたいきなり世界救おうとしてんの?」
「そこ?だってこの世界そろそろ滅びるよ?」
「ファ!?」
「ちょっと、大きい声出さないでよ。周りに見られるじゃん。てかこの星がこのまま永遠に続くとか思ってた?こんなに無理やり生活してる状況なのに」
「いやだって普通に生活できてるし」
「この生活が普通だって考えてるとかほんとにやばいね、あんた」
まあ確かにこの生活は異常なのかもしれない。
何をするにも屋内、外に行く時はボンベ必須。
でも特に不便を感じたことはない。
確かにこれまで、この状況の危険さを呼びかける人は何人もいた。しかしみんな消えていった。
多分誰にも相手にされなかったからだろう。
実際、ほとんどの人は危機感など持っていなかったし、普通に生活できればそれで十分なのだ。
この生活が終わり、この地球が滅びとしまう時なんて想像したことがない。
「とにかく、こっちの世界に転移してよ」
水宮が言う。
「転移!? 何言ってんの…」
思考回路はショート寸前…。
「いやでもやっぱり、地球を救うなんて俺にはできないよ」
俺はとりあえず断りを入れる。
そもそも、一緒に地球を救おうなんて意味不明な話に乗ってはいけない。
たとえ、相手が美少女だとしてもだ。
「えー。湯咲君ならやってくれると思ったのに。じゃあ、ここでお別れだね。」
「お別れ」という言葉を聞いた途端、俺は水宮のことをもう一度見た。
綺麗な脚、美しい黒髪、そして大きな目、大きな…。
いやそれは関係ない。
普通に寂しくなったのだ。
そう、ごく普通の感情。
下心などない。
とにかく俺は何も考えずに、気付いたらこう言っていた。
「やっぱり、転移させてください」
「そうこなくっちゃ!」
俺は、こう言ったせいで、これから大変なことに巻き込まれることになる。
続きは「小説家になろう」でご覧ください。
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RenIhs
主にイラスト紹介をやってます! 小説家さんに小説連載をやってもらったりしてます! 紹介してほしいイラストなどあればご連絡ください。
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